産婦人科では「妊孕性(にんようせい)」というよく使われている言葉があります。
「妊孕性」とは「妊娠するための力」という意味です。
・一般的に、加齢により妊孕性は低下します。
これは、加齢によって「卵子の質が低下」するためであると考えられています。
20~24歳が妊孕性のピークです、加齢により徐々に低下します。
年 齢 | 妊孕性 |
---|---|
25~29歳 | 4~8%低下 |
30~34歳 | 15~19%低下 |
35~39歳 | 24~46%低下 |
40~45歳 | 95%低下 |
胚移植という不妊治療1回あたりの妊娠率および生産率(生産率とは、妊娠して流産せず赤ちゃん誕生にまで至る率)
年 齢 | 妊娠率 | 生産率 |
---|---|---|
24歳以下 | 44% | 35% |
25~29歳 | 44% | 34% |
30~34歳 | 41% | 32% |
35~39歳 | 34% | 24% |
40~44歳 | 20% | 11% |
45歳以上 | 5% | 2% |
・若年女性の提供(ドナー)卵子を用いた不妊治療では、レシピエント(ドナー卵子の提供を受ける女性)の年齢の上昇とは無関係に、高い生産率が得られることが報告されています。ドナー卵を用いた不妊治療の成績が加齢による低下を示さないことは、加齢による妊孕性低下の主な原因は「加齢による卵の質の低下」であることを強く示唆しています。
流 産 率
年 齢 | 流産率 |
---|---|
30歳以前 | 7~15% |
30~34歳 | 8~21% |
35~39歳 | 17~28% |
40歳以上 | 34~52% |
これらのデータは、臨床的妊娠例(胎嚢が確認された妊娠例)をベースとして計算されたものであり、妊娠反応だけ陽性で超音波検査で胎嚢(赤ちゃんの住んでいる小さなお部屋)が見えない状態で流産してしまったケースは含んでおらず、実際の流産率はさらに高いと考えられています。
このような加齢に伴う流産率の上昇は、その多くが加齢による卵の染色体異常、特に異数性異常(ダウン症のような染色体の数の異常)によることが知られています。
・卵子の生涯
将来卵子に分化する「始原生殖細胞」は胎生3週目の終わりという極めて早い時期に、卵黄嚢壁の内胚葉細胞の間に出現します。胎生5週末には、始原生殖細胞は生殖堤に移動して卵祖細胞(oogonium)になります。
胎生5~7週の間に増加した卵祖細胞は増殖した体腔上皮とともに原始生殖索を形成しますが、この段階では未分化性腺と呼ばれています。SRY(sex-determining region Y)がなければ、未分化性腺の皮質が発達して性腺は卵巣に分化し、妊娠5か月になると卵巣には600万~700万個の卵祖細胞が形成され、その3分の2ほどが第一減数分裂の状態に至り卵母細胞になります。
600万から700万個まで増えた卵母細胞の数は妊娠5か月をピークにその後急速に減少します。この後、卵母細胞数は増加することなく、閉経に至るまで減少し続けます。
この卵祖細胞や卵母細胞の急激な減少メカニズムはほとんど解明されていません。
出生時の卵母細胞数は100万~200万個となり、排卵が始まる思春期頃には、30万個にまで減少します。その後卵母細胞は37歳で2万5000個、51歳で1000個となり閉経します。
生涯にわたり排卵する卵子は400個~500個(1%以下)です。
これらの卵子は、排卵周期が開始するまで、第一減数分裂の前期である複糸期で細胞周期が停止しています。この排卵までの長い細胞周期の停止が、加齢による染色体不分離の要因の一つとなっています。
American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG)とAmerican Society for Reproductive Medicine(ASRM)は合同で、『加齢に伴う妊孕性の低下』に関する意見を報告しています。報告書によりますと、年齢は女性の妊孕性に影響を与える重要な因子であり、35歳以上の女性は6か月を過ぎても妊娠に至らない場合や月経異常、子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣の手術や骨盤内感染の既往歴などリスク因子を有する場合は早急に検査と治療を受けるべきであると述べています。