周産期リスクから考えた場合、不妊治療による妊娠は自然妊娠群と比べて、前置胎盤、癒着胎盤、帝王切開、輸血、ICU管理、早産リスクなどが高くなるとの報告があります。

したがいまして、当院にて自然妊娠が成立するように最大限、努力を行います。
自然妊娠を達成するために、以下のように工夫します。

(1)‐ ①
まず、不妊症・不育症の原因を調べて明らかにします。

不妊症・不育症の原因は多岐にわたり、それぞれ解決法(治療法)が異なります。
正しい治療法を選択するために、まずは原因を突き止めます。

そのために、ご自身の月経周期、基礎体温、既往歴、現病歴、家族歴などに合わせて血液検査で行い、お体の全体的な状態を把握します。
(血液検査:約2万円)

この検査では、不妊症に関連する原因のうち、免疫学的因子(夫の精子を異物と認識して免疫的に排除しようとする結果、妊娠しにくくなる異常)や内分泌因子などが判明します。異常があれば治療対象となります。

(1)‐ ②
妊娠が成立しやすくするために当院では子宮内環境の改善を重視しています。

当院には、資格取得の難しい日本産科婦人科内視鏡学会認定の子宮鏡専門医が在籍しています。

子宮鏡とは、子宮内を直接観察して状態を確認し場合によってそのまま治療まで可能な方法です。麻酔を行うため痛みはありません。

子宮鏡を実施すると、選択的卵管通水、卵管形成術などが可能になり、子宮内環境が妊娠しやすい状態へと改善されます。

不妊症治療として子宮内環境を改善することは本来、最重要項目であるにもかかわらず、手間がかかるので他の医療機関では敬遠されがちでほとんど行われていません。

その結果、妊娠の成立しにくい子宮内環境のまま、遠回りの治療を何回も繰り返し行うことになり、費用も時間も浪費してしまいます。

農作物を育てる田畑にたとえるならば、石がゴロゴロたくさん埋まっていて、なおかつ、耕してもいない硬い土に、種を植えて農作物を育てようとしても、種が生着しないか、生着してもすぐに枯れてしまう、あるいは、大きく育ちにくいだろうことは、想像に難くないと思います。

子宮内環境を改善することは、田畑を耕したり、作物の生着や生育の邪魔になる石ころや切り株などを田畑から取り除いたり、目詰まりを起こしている用水路の目詰まりを解消して水の通りを良くすることに似ています。

当院では、不妊治療の基本中の基本である子宮内環境の改善を重視しており、子宮鏡を積極的に導入しています。

子宮鏡により、不妊症に関連する原因のうち、子宮因子、卵管因子などの異常の有無が明らかになります。異常があれば治療対象となります。

(1)‐ ③
不妊症及び不育症の主な原因は加齢です。

加齢が卵巣予備能の低下、妊娠率の低下、及び、流産率の上昇につながります。当院には、日本抗加齢(アンチエイジング)医学会専門医が在籍しています。

高度に専門化されたアンチエイジングの知識と技術で、不妊症・不育症の解決に取り組みます。

若返り、体力温存などに努め、妊娠する力の向上だけではなく、妊娠中の各種リスクの軽減、出産後の育児に必要な体力も保てるように工夫します。
 (サプリメントの処方:月におよそ1−2万円)

(1)‐ ④
自然の力を最大限に引き出すため漢方の力も使います。

漢方の生薬の組み合わせで、体力、体質に合わせて妊孕性(妊娠する力)を増強します。

当院には、世界的な漢方医学の認定医である国際中医師の資格を持つ医師が在籍しています。

漢方医学:望(顔色、体型、歩行時の様子など)、聞(現病歴、家族歴、既往歴などの確認)、切(脈を触るなど)で漢方医学の原理原則、哲学、診療方法を通じて、潜在的に持ちながらも眠った状態になっている『妊娠する力』を最大限に引き出せるよう治療に取り組みます。
(漢方処方、月におよそ1−2万円)

(1)‐ ⑤
通院期間や回数がなるべく少なくなるように配慮しています。

忙しい毎日をお過ごしの患者様が多いと思います。

多嚢胞性卵巣症候群という排卵しにくい病気の場合を除き、基本的に当院では一般不妊症の段階の治療では排卵誘発剤を処方しないようにしています。

月経周期や血液検査などの諸検査で異常がなければ、本来、排卵誘発剤は不要であり、自然排卵、及び、自然妊娠が期待できます。

本来必要のない薬剤の処方を受けるために通院しなければいけないという事態を避けて、医学理論的に正しい薬剤に限定して処方することにより、通院回数を減らせるよう最大限、配慮しています。

(1)‐ ⑥
原因を特定する諸検査を通じて、たとえば、低亜鉛血症、貧血、甲状腺機能亢進症、慢性子宮内膜炎、子宮内膜ポリープ、子宮粘膜下筋腫、卵管狭窄、卵管閉塞、排卵障害などを認めれば治療対象となります。

治療後には、自然妊娠を目指します。


◆自然妊娠を目指すための、さらなる工夫

さらなる工夫❶

HFU検査

子宮鏡(H)選択卵管通色素検査(F)腹部超音波検査(U)この3つの検査の頭文字をとってHFU検査といいます。

子宮内にカメラを入れて、子宮内をきれいに洗浄したり、卵管に医療用の色素を入れて、その様子をお腹の上から超音波検査で確認するという検査です。

HFU検査の操作は複雑であり、実施には熟練した技術と豊富な経験が必要です。

当院には、日本産科婦人科内視鏡学会が認定する子宮鏡技術認定医が在籍しておりHFU検査を得意としています。

日本麻酔学会が認定する麻酔指導医が在籍しており、HFU検査の痛みをしっかりと取り除いて無痛にします。

HFU検査を実施すると分かること。

HFU検査で分かること①
子宮鏡で子宮内悪性腫瘍の早期発見。

HFU検査で分かること②
子宮内膜ポリープ、子宮粘膜下筋腫、慢性子宮内炎など着床障害の因子を発見できます。

HFU検査で分かること③
選択卵管通色素検査は極細カテーテルを卵管に挿入し、卵管に色素を注入し、卵管の疎通性(通過性)の把握。

HFU検査で分かること④
卵管間質部の狭窄や閉塞を認めれば卵管形成術の実施も可能。

HFU検査で分かること⑤
子宮鏡‐選択卵管通色素検査を実施している時に腹部超音波で子宮、卵管、卵巣の状態をよりよく確認できます。

要注意。似て非なる検査があります

HFU検査と似ている検査として、子宮卵管造影(HSG)という検査があります。
子宮卵管造影(HSG)という検査のほうが簡単にできるため普及していますが、HFU検査よりも安全性と治療性は劣ります。

2つの検査を比較すると次のような違いがあります。

HFUとHSGの違い①
子宮卵管造影(HSG)は子宮の負担が大きい検査です。

HFUとHSGの違い②
子宮卵管造影(HSG)は子宮内の汚れを卵管に流してしまうリスクがあります。

HFUとHSGの違い③
子宮卵管造影(HSG)は人工的に子宮内膜症(不妊症の原因の一つ)を作ってしまうリスクがあります。

HFUとHSGの違い④
子宮卵管造影(HSG)は造影剤のアレルギーのリスク(最悪の場合は死亡することがあります)、放射線の被ばくがあります。

HFUとHSGの違い⑤
HFU検査は、子宮内を洗浄した後に観察しますので②のリスクがありません。
造影剤を使用しませんのでアレルギーのリスクもなく、放射線も使用しないため被ばくもありません。

したがいまして、HFU検査には、子宮卵管造影(HSG)の上記デメリットが一切なく、当院では安全性の高い、このHFU検査を採用して行なっています。

さらなる工夫❷ 
ご希望があればFSP(卵管内人工授精)も実施可能です。

子宮内へ濃縮した精液を注入する一般的な子宮内への人工授精では、卵子と出合って受精する場所である卵管まで、精子が自力で泳いで上っていく必要があります。

女性側に精子を動きにくくしてしまう抗体という物質が作られている場合は、精子が卵管までたどり着きにくくなり、その分、卵子と出合って受精する可能性も低くなります。
精子の運動能がもともと低い場合も同様です。

こうした子宮内への人工授精よりも、最初から卵管に直接精子を注入してあげれば、卵子と精子が出合って受精する確率が高くなるため妊娠率が上昇するものと期待できます。

一般不妊治療の段階で1−2回実施のご希望があれば、当院で可能です。
子宮鏡専門医が実施しますので、効果の確実性が高いです。


さらなる工夫❸
TVOI(多嚢胞性卵巣症候群に対する超音波ガイド下での経腟小卵胞穿刺術)

ご希望があれば、当院で実施可能であり、排卵率を高めるとの論文が報告されています。
腹腔鏡下多嚢胞性卵巣焼灼・多孔術(LOD)と比較すると、TVOI(多嚢胞性卵巣症候群に対する超音波ガイド下での経腟小卵胞穿刺術)の場合は、腹腔鏡が不要でお腹に傷が付かない、全身麻酔が不要、日帰りも可能ですので、患者様のご負担は、LODよりも遥かに少ないです。

TVOI直後に人工授精が可能ですので、その周期にも自然妊娠可能です。

さらなる工夫❹
卵管鏡下卵管形成術(FT)

選択卵管通水で卵管の「間質部」の狭窄及び閉塞の形成術は可能ですが、卵管の「峡部」と呼ばれる場所の形成術は難しいです。

この場合、卵管鏡下の卵管形成術(FT)が行われます。
他院で「体外受精でしか子供ができない」と断言されても、当院のFT手術で自然妊娠が可能になるケースがよくあります。

過去に子宮卵管造影検査で「通っている」と診断された方でも、なかなか自然妊娠できない場合に、以前の画像を分析すると、通常より卵管が細い場合や部分的に閉塞されている場合も数多くあります。

そのような方に対しても、FT手術のご提案をさせて頂きます。自然妊娠を目指せます。

さらなる工夫❺
妊孕性温存のための子宮鏡下子宮粘膜下筋腫切除術

子宮粘膜下筋腫があれば過多月経、貧血になりやすいですし、着床障害(受精卵が子宮内膜に生着しにくい)の原因にもなります。

一般的な子宮鏡下での子宮粘膜下筋腫の切除術では子宮内膜ごと根こそぎ削って直接的に筋腫を切除しますが、当院の手術方法は子宮内膜を温存したまま筋腫を切除します。

非常に繊細な技術を要しますが、子宮内膜を削らずに温存すれば、受精卵の着床がしやすくなり、妊娠率の向上が期待できます。

さらなる工夫❻
内膜スクラッチ

着床の前に故意に子宮内膜に非常に小さな傷をつける方法です。
子宮内膜に傷をつけると、子宮内膜は修復の過程でインターロイキンなどのサイトカインを分泌します。

これらのサイトカインは着床の促進と免疫応答の正常化が期待できると多くの論文で報告されています。

基本的に、高度不妊治療の胚移植の段階で実施する治療法ですが、ご希望があれば、一般不妊治療の段階でも当院で内膜スクラッチは実施可能です。

子宮鏡検査の時についでに実施することも可能です。


ここまでご説明した治療により、高度不妊治療(ART)による妊娠率も充分高まるかと思われます。

一貫性のある治療をご提供する必要があるため、他院で高度不妊治療(ART)を行いながら当院での上記治療を受けることは基本的に出来ませんので予めご了承ください。


(2)無痛、安全、最短コースでの妊娠を目指します。

35歳以上・長い不妊期間の方をはじめとして、妊孕性(妊娠する力)が弱まっていると思われる患者様について、遅くなるほど、さらに妊孕性が弱くなるため、なるべく早く妊娠を成立させる必要があり、早めに治療をステップアップすると最短コースでの妊娠に繋がります。

高度不妊治療はとても痛いのではないかとご心配の患者様も少なくありません。

採卵をするときに他院では麻酔をしないことも多々ありますが、当院では麻酔で眠ってもらい、痛みを取り除きます。

麻酔をして採卵を行いますので、眠って痛みを感じないため、体を動かされてしまう心配も少なくなります。

体を動かさず、じっとしてもらえるため、私どもの採卵も実施しやすくなり、採卵数の上昇(採卵する場合は一度の採卵でなるべくたくさんの卵子を採取するのが理想です)、採卵時のリスク低減にも関連します。

無痛かつ安全な高度生殖医療を心がけて治療を行なっています。

(2)‐ ①
手間を惜しまず卵胞内洗浄。大切です。

手間がかかるため他院では採卵時に卵胞内洗浄を行わないことが多々ありますが、当院では基本的に採卵時に卵胞内の洗浄を行います。これにより、一度の採卵でなるべくたくさんの卵子を採取できます。

当院には経験豊富な生殖医療専門医が在籍していますので、効率の良い方法で高度生殖医療を受けることができます。

(2)‐ ②
「採卵は痛いですか?」

これは多くの患者様がご心配されることです。

当院では、日本麻酔学会が認定する専門医が在籍しており、しっかりと麻酔で眠ってもらいます。眠っているため、採卵の痛みは全くありません。

麻酔で眠っている間、血圧、脈拍などのバイタルサイン(生体情報)をしっかりと観察し、異常時には百戦錬磨の熟練麻酔科医をはじめとした20年以上のベテラン医師チームが結集して適切に対応します。

また、先ほども述べましたが、しっかりと麻酔を行うと、一度の採卵で取れる卵子の数も上昇して、採卵効率が高ます。

当院のように、麻酔科専門医が在籍している高度生殖医療施設(高度不妊症治療をしている産婦人科)は極めて稀です。

無痛かつ安全な高度生殖医療を行えるよう最大限の配慮をしています。

(2)‐ ③
生殖医療は常に進歩しています。

当院で不妊症・不育症治療を担当する医師は、日本語だけでなく、英語、中国語にも対応可能です。

非常に勉強熱心で、日本国内の学会だけではなくて、国際学会にも常に参加し、最新の不妊症治療の知識を吸収しています。

常に先進医療を導入し、最短コースでの妊娠を目指します。

(2)‐ ④
おろそかにしない。培養室の管理。とても大切なこと

培養室の質の向上が妊娠率の向上に繋がります。当院の培養室は20年以上の研究経験を持つ医学博士が主導し精密に管理します。

その他、優秀な外部の培養士専門会社の培養士の派遣もお願いし、交流の機会を重ねて常に最新の知識を保ち、最善の培養環境を追求しています。


(3)全ての治療を、一つの建物内で一貫して受けられます。

当院では、不妊症治療・不育症治療・妊娠管理から分娩管理までを含めた周産期管理を、一つの建物内で一貫して取り扱っております。

妊娠出産に関する全てのサービスを同じ建物内で完結する形でご提供できる複合型インテリジェント・ビルディングとなっています。


平日も土日祝日も、そして、5月の大型連休中も、8月のお盆の間も、いつも通り診療しております。外来休診は年末年始だけです。異常症状への対応や分娩は24時間365日対応しています。

地域に根ざした産婦人科専門の医療機関として、皆様のお悩みを解決するために、お役に立てて頂きたいと考えています。

ぜひとも、ご来院・ご相談ください。


【日本語での発表論文】

・子宮鏡下子宮粘膜下筋腫切除術前にレルゴリクス投与の有用性の検討
・子宮鏡下子宮内膜下腺筋症摘出、術後妊娠になった1例
・不妊治療中に子宮鏡の有用性,当院24例の経験
・不妊症の治療に苦慮し、子宮鏡で慢性子宮内膜炎を認め、治療後自然妊娠になった1例
・子宮内膜症性卵巣嚢胞合併不妊に対し,腹腔鏡下二回手術後体外受精で妊娠になった1例
・妊孕性温存のために,巨大子宮粘膜下筋腫に対し子宮鏡手術の有用性,当院3例の検討
・子宮内膜症性卵巣嚢胞、子宮内膜ポリープ合併不妊に対し、腹腔鏡手術、子宮鏡下手術後妊娠になった1例
・不妊症の治療に苦慮し,慢性子宮内膜炎の治療後に自然妊娠を得た1例
・子宮内腫瘤に対し子宮鏡手術を行いadenomyomaと診断され、 術後自然妊娠に至った不妊症の一例
・難治性卵巣子宮内膜症性嚢胞に対し,腹腔鏡下嚢胞摘出術後再発,再度嚢胞摘出術後顕微受精で妊娠に至った不妊症の一例


【英語での発表論文】

・Effects of blocking the chemokine receptors, CCR5 and CXCR3, With TAK-779 in a
rat small intestinal transplantation model.
・Cloning and in vitro antiapoptotic effects of pig FLIPs.
・Molecular cloning of pig Rad51, Rad52, and Rad54 genes, which are involved in
homologous recombination machinery.
・Isolation and sequencing of pig Blm and Ubl-1/SUM0-1 genes that relate to the
recombination machinery.
・Investigation of cynomolgus monkey complement.
・Analysis of the serine protease function of porcine factor I produced by liver cells for
xenotransplantation.
・Studies of monkey complement: measurement of cynomolgus monkey CH50, ACH50,
C4, C2 and C3.
・Effect of blocking the mucosa! addressin cell adhesion molecule-1 (MAdCAM-1) in a
rat small intestinal transplantation model.
・Cross-species function of the pig C1 esterase inhibitor.
・Features of a newly cloned pig C1 esterase inhibitor.

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不妊症の一般的な説明

ここからは、不妊症についての一般的な説明をしたいと思います。

産婦人科の分野でよく使う言葉に「妊孕性(にんようせい)」という言葉があります。
「妊孕性」とは「妊娠するための力」という意味です。

「妊孕性が高い」というのは「妊娠する力が強い」ということです。
逆に「妊孕性が低い」というのは「妊娠する力が弱い」ということです。

一般的に、加齢により妊孕性は低下します。
これは、加齢によって「卵子の質が低下」するためであると考えられています。

20~24歳が妊孕性のピークです。
妊孕性は、
25~29歳で4~8%低下し、
30~34歳で15~19%低下し、
35~39歳で24~46%低下し、
40~45歳では95%低下します。

胚移植という不妊治療1回あたりの妊娠率および生産率(生産率とは、妊娠して流産せず赤ちゃん誕生にまで至る率)は、
24歳以下では44%、35%
25~29歳では44%、34%
30~34歳では41%、32%
35~39歳では34%、24%
40~44歳では20%、11%
45歳以上では5%、2%
と言われています。

若年女性の提供(ドナー)卵子を用いた不妊治療では、レシピエント(ドナー卵子の提供を受ける女性)の年齢の上昇とは無関係に、高い生産率が得られることが報告されています。

ドナー卵を用いた不妊治療の成績が加齢による低下を示さないことは、加齢による妊孕性低下の主な原因は「加齢による卵の質の低下」であることを強く示唆しています。

流産率は、
30歳以前では7~15%
30~34歳では8~21%
35~39歳では17~28%
40歳以上では34~52%
と報告されています。

これらのデータは、臨床的妊娠例(胎嚢が確認された妊娠例)をベースとして計算されたものであり、妊娠反応だけ陽性で超音波検査で胎嚢(赤ちゃんの住んでいる小さなお部屋)が見えない状態で流産してしまったケースは含んでおらず、実際の流産率はさらに高いと考えられています。

このような加齢に伴う流産率の上昇は、その多くが加齢による卵の染色体異常、とくに異数性異常(ダウン症のような染色体の数の異常)によることが知られています。

始原生殖細胞は胎生3週目の終わりという極めて早い時期に、卵黄嚢壁の内胚葉細胞の間に出現します。

胎生5週末には、始原生殖細胞はアメーバ運動をして生殖堤に移動して卵祖細胞になります。
胎生5~7週の間に増加した卵祖細胞は増殖した体腔上皮とともに原始生殖索を形成しますが、この段階では男女の区別は不可能であり、未分化性腺と呼ばれています。

SRY(sex-determining region)がなければ、未分化性腺の皮質が発達して性腺は卵巣に分化し、妊娠5か月になると卵巣には600万~700万個の卵祖細胞が形成され、その3分の2ほどが第一減数分裂の状態に至りら卵母細胞になります。

600万から700万個まで増えた卵母細胞は妊娠5か月をピークにその後急速にその数が減少します。

この後、卵母細胞数は増加することなく、閉経に至るまで継続して減少します。
この卵祖細胞や卵母細胞の急速な減少のメカニズムはほとんど解明されていません。

出生時には、卵母細胞は100万~200万個となり、排卵が始まる思春期頃には、その数は30万個にまで減少します。

その後卵母細胞は37歳で2万5000個、51歳で1000個となり閉経します。
生涯にわたり排卵する卵子は400個~500個(1%以下)です。

これらの卵子は、排卵周期が開始するまで、第一減数分裂の前期である複糸期で細胞周期が停止しています。この排卵までの長い細胞周期の停止が、加齢による染色体不分離の要因の一つとなっています。

American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG)とAmerican Society for Reproductive Medicine(ASRM)は合同で、『年齢に伴う妊孕性の低下』に関する意見を報告しています。

それによりますと、年齢は女性の妊孕性に影響を与える重要な因子であり、35歳以上の女性は6か月を過ぎても妊娠に至らない場合や月経異常、子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣の手術や骨盤内感染の既往などリスク因子を有する場合は早急に検査と治療を受けるべきであると述べています。


不妊症の分類

不妊症は、一度も妊娠しない原発性不妊と、過去に妊娠分娩した経験のある婦人がその後妊娠しない状態となった続発性不妊に分類されます。

不妊の原因が夫にある場合は男性不妊症、妻に原因がある場合を女性不妊症と分類されます。
不妊の原因が明らかな場合には器質的不妊症、原因不明の場合は機能性不妊症と言います。

妊娠を希望している健常な夫婦であれば、3か月以内で約50%が、6か月以内で約70%が、1年以内に90%近くが妊娠に至ります。

女性の年齢が38歳前後からは妊孕能が急に低下するので、挙児を希望する場合は、32歳~33歳くらいまでには子作りを考えたり、あるいは、子作りのための医療を受けることが望ましいとされています。

挙児を希望するカップルの10~15%が不妊であり、健康な夫婦の1割以上が不妊に悩んでいると考えられています。

不妊の割合は、20歳代前半までは5%以下ですが、20歳代後半になると9%前後の不妊率になり、30歳代前半で15%、30歳代後半で30%と上昇し、40歳以降では約64%が自然妊娠の望みがなくなると推定されています。

性別による不妊原因の比率は、女性原因のみ41%、男性原因のみ24%、男女に原因あり24%、原因不明11%と、男性側にも約半数の原因があると言われています。


排卵因子の異常

視床下部あるいは下垂体性排卵障害、卵巣性排卵障害、乳汁漏出症、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、黄体機能不全などが挙げられます。


卵管因子の異常

卵管因子は女性側の原因で最も多く、不妊因子の30%前後と報告されています。
卵管は、卵子と精子の通過路というだけでなく、卵子をピックアップし、受精の場を提供し、1週間にわたる胚の生育環境を提供している、妊娠にとっては重要な臓器です。
その病態としては、上行性感染症後の癒着による卵管通過障害や卵管周囲癒着が主な原因となります。
最近のクラミジア感染などの性感染症(sexually transmitted diseases : STD)や子宮内膜症の増加は、卵管障害を増加させています。


子宮因子の異常

胚が着床し発育する場所である子宮内膜と、それを取り巻く子宮に起因する不妊を総称して子宮性不妊といいます。
子宮・頸管因子が、不妊原因の約10%を占めると報告されています。
子宮因子には子宮の形態異常、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの腫瘍、子宮内膜の器質的・機能的異常など様々な病態が含まれ、胚の着床障害、卵管に対する圧迫、子宮の異常収縮や血流障害が要因となります。
子宮筋腫については、子宮内腔の変形や拡張をきたす粘膜下や筋層内の筋腫は不妊因子となり得ます。
頸管因子では、頸管粘液の分泌不全や頸管腺の器質的異常により、精子の子宮腔内への上昇が阻止されます。


男性因子の異常

不妊症のカップルの中でも近年男性因子が注目されており、明らかな男性因子が約4分の1、双方の原因が4分の1、合わせておよそ2分の1が男性側にも原因があると言われています。男性不妊症の原因として、①造精機能障害83%、②精路障害14%、③性機能障害3%に大別されます。
男性不妊の90%を占める造精機能障害のうち、原因不明の特発性造精機能障害が60%、染色体異常が2~3%にみられ、Klinefelter症候群がその大部分を占めます。後天的な造精機能障害をきたす最も多い原因は精索静脈瘤であり、その他精路通過障害、副性器障害などが挙げられます。


免疫因子の異常

不妊症カップルの10~20%にみられる原因不明不妊の中で、かなりの頻度で免疫因子が存在すると考えられています。免疫性不妊は、精子に対する自己免疫あるいは同種免疫がその主体で、男性における自己精子免疫は、精子減少症、無精子症の原因となります。女性に生じた精子免疫は精子運動性、卵と精子の結合、受精卵や初期胚に障害を与えます。不妊女性の血中に存在する精子不動化抗体、あるいは、不妊男性の射出精子上の精子結合抗体は、おのおの3%程度に検出可能と報告されています。


子宮内膜症因子の異常

不妊症の25~35%に子宮内膜症が合併し、子宮内膜症例の30~50%に不妊が認められます。無治療の子宮内膜症例の累積妊娠率(24~36か月)は、Ⅰ期Ⅱ期24~57%、Ⅲ期Ⅳ期5~10%と、対照群の85~90%と比較し明らかに低値です。子宮内膜症による妊孕能低下の原因はまだ不明の点が多いですが、骨盤内癒着などの器質的な原因だけでなく、サイトカインや細胞増殖因子など種々の生理活性物質による卵子や精子、また受精卵の質への影響も指摘されています。


原因不明因子

一般的に原因不明不妊は全不妊症の10~25%を占めるとされています。
原因不明不妊からの妊娠成績は、他の不妊因子の成績と比べるとやや不良です。
結婚後の不妊期間が長いほど妊娠率が低く、原因不明不妊の頻度も増加します。
加齢による卵巣予備能の低下が最も大きな原因と考えられています。


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不妊治療・研究の最前線
 

2022年8月8日
不妊・流産の原因解明へ一歩前進

九州大学は8月3日、受精後の成長に必須である卵子のエピゲノムの一端を明らかにしたと発表しました。

研究成果は「Nature Communications」に掲載されています。(世界一流の医学誌です。これに掲載されることは物凄いことです)

国内で不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は18.2%、また死産・流産を経験したことのある夫婦の割合は全体の15.3%にのぼります。

不妊や流産の原因を明らかにし、その予防や治療に貢献するために、卵子の遺伝子が受精後に働く仕組み(エピゲノム)を解明することが望まれています。

受精後の胚の成長に必要な卵子のエピゲノム機構、半分以上の仕組みは不明です。

エピゲノムの実体はDNAのメチル化や(DNAに結合する)ヒストンタンパク質のメチル化などの化学修飾です。

研究グループは過去に、マウス卵子のDNAメチル化が、受精後の胚の成長に必須であり、DNAメチル化酵素のDNMT3Aにより施されることを発見してきました。

近年、卵子において遺伝子が活発に働く領域では、ヒストンH3タンパク質に施されるH3K36me3という修飾が集積し、それをDNMT3Aが認識して高度のDNAメチル化を施すことが報告されました。

しかし、ゲノムの半分以上を占める残りの領域でDNAメチル化が確立される仕組みは依然不明でした。

そこで、研究グループは過去に得られた知見をもとにH3K36me2という別のヒストン修飾に注目しました。

今回、卵子は他の組織に比べ得られる細胞数が少ないため、解析に必要な細胞数が従来法の100分の1程度(50-300細胞)である微量エピゲノム解析法を駆使してH3K36me2の分布を調べました。
その結果、H3K36me2は特にX染色体へ高度に集積し、他の常染色体にも広く観察されました。

次に、人工的にH3K36me2を低下させると、中程度のメチル化領域でのDNAメチル化が選択的に低下し、X染色体特有のDNAメチル化パターンが常染色体様のパターンに切り替わりました。

また、この卵子を持つメスマウスは不妊で、正常なオスマウスと交配しても、受精した胚は子宮に着床する前後の時期に死ぬことがわかりました。

さらに、卵子でH3K36me2とH3K36me3を同時に低下させると、ほとんどのDNAメチル化が低下しました。

したがって、この2つのヒストン修飾は、マウス卵子においてDNAメチル化を誘導するのに不可欠なプラットフォームを形成することが示されました。

研究グループは、「今回の発見は、卵子の遺伝子が受精後どのように働くかを決める仕組みであるエピゲノムの一端を明らかにするものであり、将来的に不妊・流産の原因解明、治療法開発への応用など、生殖医療に役立つことが期待される」と述べています。(出典:M3臨床ニュース)
 


2021年1月8日
子どもの発達障害に加齢精子の低メチル化が関与の可能性

東北大学は1月6日、父親の加齢に伴う子どもの神経発達障害発症の分子病態基盤として、神経分化を制御するタンパク質であるREST/NRSFが関与し、加齢した父親の精子の非遺伝的要因が子どもに影響することを発見したと発表しました。

この研究は、同大大学院医学系研究科・発生発達神経科学分野の大隅典子教授らの研究グループが、同大加齢医学研究所医用細胞資源センターの松居靖久教授、東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科動物発生工学研究室の河野友宏教授、愛知県医療療育総合センター発達障害研究所障害モデル研究部の吉崎嘉一研究員と共同で行ったもの。研究成果は、「EMBO Reports」(電子版)に掲載されています。

将来の健康や特定の疾患へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境に強く影響を受けると考えられています。

これまでは、主に母体の栄養状態や薬物摂取等、母親側からの影響が注目されていたが、近年は、父親からの影響にも注目が集まりつつあります。

近年、ヒトを対象とした疫学調査により、子どもの自閉症スペクトラム障害等の精神発達障害のリスクに関して、母親よりも父親の加齢が大きく関わることが世界各国で報告されています。

加齢に伴い精子におけるde novo突然変異の蓄積および遺伝子発現を制御するDNAメチル化の異常が示唆されているが、現在までに、その正確な分子メカニズムは不明でした。

加齢父マウスの仔、REST/NRSFを介した神経発生異常でDNA低メチル化の可能性

今回、研究グループは、父親の加齢が仔の神経発達障害様行動異常の原因となりうること、また、その原因となる分子基盤の一部を明らかにしました。

まず、12か月齢以上(加齢)の父親マウスから生まれた仔マウスを調べたところ、母仔間の音声コミュニケーションである超音波発声の頻度低下や鳴き方の単調化といった神経発達障害様行動異常を示すことがわかりました。

次に、加齢マウスの精子を用いた全ゲノム網羅的メチル化解析を行った結果、96か所のDNA低メチル化領域を同定しました。

さらに、このDNAメチル化領域の配列を解析し、神経分化を制御することが知られるタンパク質REST/NRSFの結合配列が高頻度に存在することを発見。

そこで、神経発生が盛んになる胎生期の脳における網羅的遺伝子発現解析を実施した結果、加齢父マウス由来の胎仔脳では、自閉症関連遺伝子群の活性が強く、神経発生後期に発現すべき遺伝子群が前倒しで働いていることを発見しました。

興味深いことに、加齢父マウス由来の胎仔脳では、REST/NRSFの標的遺伝子が高発現していました。

若齢マウス精子にDNA低メチル化誘導で、仔は神経発達障害様に

さらに、精子のDNA低メチル化が仔マウスに影響する可能性について検証するために、薬剤投与により若齢父マウスにDNA低メチル化を誘導し、生まれた仔マウスを解析。

その結果、超音波発声の頻度が低下し、鳴き方のパターンも単調化することが再現されました。

以上より、父マウスの加齢による仔マウスの行動異常には精子のDNA低メチル化が関与しており、その分子メカニズムとして、REST/NRSFを介した神経発生異常による可能性が示唆されました。

研究グループは、「今後、加齢によるDNAの低メチル化やその次世代への影響を防ぐことにより、神経発達障害の予防や治療法の開発が進むことが期待される」と、述べています。(出典:M3臨床ニュース)
 
 
 
2020年4月12日
父親の加齢精子が子の神経発達障害に影響するメカニズムを解明、マウス実験で

東北大学は4月9日、マウスを用いた実験によって、遺伝子の働きを制御するいくつかのエピゲノムマーカー(ヒストンタンパク質メチル化修飾等の量)は、精子形成過程において、加齢に伴い大きく変化することを見出したと発表しました。

これは、同大大学院医学系研究科発生発達神経科学分野の舘花美沙子博士課程大学院生、大隅典子教授らの研究グループによるものです。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されています。

近年、自閉スペクトラム症、注意欠陥多動性障害、学習障害等の神経発達障害が増加し、社会的に大きな影響を与えています。

その発症メカニズムは未だ不明な点が多く、診断法や治療法の開発は喫緊の課題だ。発症の背景には、遺伝的要因だけでなく、母体の薬物への暴露や周産期の感染等の環境要因も知られていますが、最近では、世界約600万人の疫学調査から、神経発達障害の発症に父親の高齢化が関わることが明らかとなりました。

同研究科では、モデルマウスを用いて神経発達障害の発症メカニズムに関する基礎医学研究を展開し、統合失調症のような行動異常発症の発症について、発達の過程の重要な時期(臨界期)を明らかにし、母マウスの脂質栄養バランスの乱れが仔マウスの不安様行動の異常を引き起こすことを報告してきました。

マウスを用いた実験から、父親の加齢が神経発達障害の遺伝的リスクの交絡因子となっていることについても世界に先駆けて報告しています。

しかし、父親の加齢がどのように精子の形成過程に影響するのかについては、その分子機構の詳細は不明のままでした。

マウスの精子形成過程でエピゲノムマーカーの量が加齢に伴い変化することを発見

本研究では、まず月齢3か月の若い雄マウスにおいてマウス精巣の免疫組織化学的解析を行い、12段階の精子形成過程における主要なエピゲノムマーカー8種をカタログ化しました。

次に、月齢12か月以上の加齢したマウスの精巣について同様の解析を行い、イメージング定量技術を用いてこれら8種のエピゲノムマーカーの量を比較しました。

その結果、いくつかのエピゲノムマーカーは精子形成過程において加齢に伴い大きく変化することを見出しました。

一般に、ヒストンタンパク質は最終的に出来上がった精子にはわずかしか持ち込まれませんが、「H3K79me3」など一部の修飾ヒストンは残存することが知られています。

H3K79me3は、ヒトやマウスを含めた哺乳動物において、遺伝子のスイッチをオンにすると考えられているヒストン修飾です。

研究チームはすでに、精子におけるH3K79me3の量と仔マウスの音声コミュニケーション異常との間には相関性があることを見出しており、この知見に関して、仔マウスの神経発達「予測マーカー」として特許化しています。

本研究で得られた、父親の加齢が精子形成過程のエピゲノムに影響を与えるという新たなマウスにおける知見は、ヒトにおいても父親の加齢が次世代の神経発達に影響を与える可能性について警鐘を鳴らすものであるといえます。

今後、加齢によるエピゲノム変化を回復させるような薬剤を同定することにより、生殖補助医療と組み合わせて神経発達障害の発症リスクを低下させるような方法の開発に結びつく可能性があります。

「本研究で得られた知見を発展させることで、神経発達障害のみならず、父親の高齢化により誘発される次世代の疾患を防ぐための新しい治療法の開発が進むことも期待される」と、研究グループは述べています。(出典:M3臨床ニュース)

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